2024.03.27
八十八夜の時期はいつ? 意味は? 新茶のいれ方を京都<一保堂茶舗>のプロが解説
「夏も近づく八十八夜~♪」という茶摘み歌の歌詞でも知られる八十八夜(読み方:はちじゅうはちや)。なんとなく新茶(日本茶、緑茶)と関係がある日、と認識している人も多いと思いますが、具体的にいつ、何をする日か、その由来などをご存じですか?
今回は、そんな八十八夜の素朴な疑問と、新茶のおいしい淹れ方(急須と水出し)について、日本茶(緑茶)のプロに聞きました。教えてくれるのは、京都に本店を構える日本茶専門店<一保堂茶舗>の加藤吏一郎さんです。
「2024年の八十八夜は、ゴールデンウイークの真っただ中にあたる5月1日(水)。フレッシュな新茶が店頭に出回りはじめ、日本中のお茶屋さんが大いに盛り上がる時期です。ぜひ八十八夜の意味を意識しながら、『初物』のおいしさを味わってみてください」
※こちらは過去記事から情報を更新して掲載しています(2024年3月27日)
まずは八十八夜の意味と、新茶とはどんな日本茶のことなのか紹介します。
【八十八夜の意味とは?】日本独自の節気で、かつては茶農家が茶摘みをはじめる目安に
●八十八夜っていつ?
2024年の八十八夜は5月1日(水)です。
八十八夜の数え方は、春がスタートする立春(節分の翌日、2024年は2月4日(日))から数えて、「八十八の夜」が過ぎた88日目の日のこと。毎年5月2日ごろが八十八夜にあたります。ちょうどゴールデンウイークの真っただ中、初夏の風が心地よい時季です。
ちなみに立春とは、中国で考案された暦の区分方法「二十四節気」に基づく、春の節目のひとつ。1年を春夏秋冬の4つに分け、さらにそれぞれ6つに分けて名前がつけられ、春は「立春、春分」、夏は「立夏、夏至、大暑」、秋は「立秋、秋分」、冬は「立冬、冬至、大寒」などがおなじみです。
●八十八夜って何の日? 何をするの?
八十八夜とは、前出の中国で生まれた暦「二十四節気」の補助的な節気として、日本で生まれた独自の暦「雑節(ざっせつ)」のひとつ。ちなみに雑節には「八十八夜」のほかに「節分」「彼岸(春、秋)」「入梅」「半夏生」「土用」などがあります。
暦の上では八十八夜の5月2日の少しあとには、立夏(2024年は5月5日(日))が訪れ、夏が始まります。「八十八夜の別れ霜」といって農作物に被害を与える遅霜(=晩春から初夏にかけて起きる霜)の心配が減り、気候も安定するため、八十八夜は「農作業に本腰を入れる日」の目安とされてきました。そのため米農家ではこの時期から苗代づくりの準備などをはじめていたそうです。
また、「米」の字を分けると八十八になること、末広がりの「八」が重なることから、「農業にとって縁起のいい吉日」ともされてきたそう。
もともとはお茶だけでなく農業全体の行事なんですね。もちろん、文部省歌の「茶摘み」歌で、八十八夜=新茶のイメージがあるように、お茶農家にとっても八十八夜は特別な日だったようです。
「かつて茶農家では、八十八夜の日の前後に新茶(一番茶)となる新芽の収穫をはじめました。現在では八十八夜の日を目安にしながらも、チャノキ(=茶葉が育つ木の名前)の生育状況や天候に応じて臨機応変に茶摘みを行っています」
【新茶とは?】その年の新芽を摘んで加工した一番茶。エネルギッシュな味わいが魅力!
●新茶は、どうして特別なの?
緑茶とはチャノキの葉(茶葉)を摘み、加工したもの。育成・加工の違いなどによって、煎茶、玉露、番茶、ほうじ茶などに分かれます。お茶のなかでも、その年の最初に芽吹いたチャノキのやわらかい新芽を摘んで加工したものが「新茶(一番茶)」です。
「八十八夜に摘まれたお茶を飲むと、一年間無病息災でいられる縁起物」としてもてはやされ、その味わいも特別なのだとか。
「寒い時期に養分を蓄え芽吹いた新茶の味わいは、フレッシュでエネルギッシュ。何よりも緑茶特有の青葉アルコール由来の青々しい香りがたまりません。通年でご用意しています煎茶とはまた異なる魅力をぜひ味わっていただきたいです」
また、毎年味わいが異なるのも新茶のおもしろさだとか。
「私自身、今年はどんな仕上がりかを、心待ちにしています。<一保堂茶舗>はもちろん、全国のお茶屋さんにとって新茶は特別なもの。ぜひ産地ごとの味わいの違いや、今年の出来などを店頭で聞いてみてください。前のめりでお話くださると思いますよ(笑)」
●新茶の収穫時期は、いつからいつまで?
お茶の生育状況は産地によって異なるので、新茶の時期は各地さまざまです。
「<一保堂茶舗>が扱う京都のお茶の場合は、例年4月末〜5月初旬に摘まれたものが新茶にあたります。その新茶が店頭に出回る時期は、5月初旬〜中旬ごろから6月いっぱいまで。摘みとった新芽を加工し、2週間ほどで店頭に並びます」
●新茶の保存方法は?
せっかく特別な新茶を手に入れたら長く楽しみたいもの。どのように保存すれば新茶のおいしさを長く楽しめるのでしょうか?
「残念ながら、未開封のパッケージのままでもフレッシュな香りは1カ月~1カ月半ほどで飛んでしまいます。冷凍・冷蔵でも香りは保存できません。新茶を購入したら、梅雨のころまでをめどに飲みきるのがおすすめです。開封したものは2~3週間をめどに飲みきりましょう」
おいしく飲める期間がそんなに短いなんて知りませんでした。冷凍でも保存ができないなんて意外です。
新茶を購入してから楽しむ期間は2~3週間、保存は常温で高温多湿を避けることもポイント。茶筒がなければ、パッケージのまま密封してもOKです。お茶のパッケージは味わいや香りが損なわれないよう工夫されているため、十分保存がきくそうです。
特別な新茶を手に入れたら、丁寧に淹れていただきたいですよね。続いては、新茶をおいしく楽しむための基本の淹れ方を紹介します。
【温&冷で楽しむ】おいしい新茶の淹れ方を<一保堂茶舗>が解説!
今回は、新茶を温かく楽しむ急須(お湯出し)で淹れる方法と、冷たく楽しむ水出しで淹れる方法の2つを、加藤さんに教えてもらいました。
「同じ茶葉でも、温かいお湯出し、冷たい水出しのどちらで淹れるかで、味わいが大きく異なるのがお茶の魅力です。高い温度の湯でさっと短時間で抽出すると、渋みや苦みもしっかりと出た力強い味わいになり、逆に低い温度でじっくり抽出すると旨みや甘みを感じるまろやかな味わいが楽しめます」
そして、新茶を淹れるときには、気をつけたいポイントがあるそうです。
「新茶の茶葉である新芽はやわらかくデリケート。お湯出しと水出しのどちらの方法で淹れるにしても、一般的な煎茶よりも『気持ち短めの待ち時間』で抽出するのがおすすめです」
【新茶の淹れ方①:温かく楽しむ】デリケートな新茶は、短時間で蒸らしフレッシュさを味わって
「一般的な煎茶は80℃のお湯で1分程度の蒸らし時間がおすすめですが、やわらかい新茶は、茶葉がほどけるスピードが速いので、45~50秒と短時間で抽出し、フレッシュさを味わいましょう」
<道具と茶葉>(2〜3人分)
- 急須
- 茶碗(人数分)
- 新茶の茶葉…約10g(大さじ軽く2杯が目安)
- 湯…100~200ml
「お湯の量が100~200mlくらいまでなら、茶葉は同じ約10gで対応できます。お湯の量がそれ以上になる場合は、お湯が約100ml増えるごとに茶葉小さじ1杯程度(3g)を目安に増やしましょう」
<淹れ方>
1. 新茶の茶葉を急須に入れる
「10gの茶葉は、大さじ約2杯が目安です。実際に計ってみると意外に多いと感じるかもしれませんが、煎茶特有の旨みや苦みがしっかりと感じられる味わいになります。二煎目、三煎目もおいしくいただけますよ」
2. 熱湯を茶碗に注ぎ、80℃程度に冷ます
沸騰したお湯を人数分の茶碗の8分目を目安に注ぎ、適温の約80℃まで冷ますと同時に茶碗を温める。時間は約1分が目安。
「茶葉に対しての適温は、使用する茶葉によって多少変わってくるので、茶葉の購入時にお店の方に確認するといいでしょう。また専用の湯冷ましをお持ちでしたら、茶碗とは別にそちらを使って湯冷まししてももちろん大丈夫です。細かく温度設定できる湯沸かしポットを使う場合は、茶碗に注いだお湯は茶碗を温めるだけに使ったら、捨ててOKです」
3. 冷ましたお湯を注ぎ、45~50秒蒸らす
茶碗で冷ましたお湯を急須に注ぎ、すぐにふたをし、45~50秒蒸らす。
「温度設定できる湯沸かしポットを使う場合は、適温の約80℃に設定して、ポットから直接急須に注ぎましょう。一般的な煎茶が1分程度に対し、新茶は気持ち短時間で蒸らします」
4. 人数分の茶碗に注ぎ分ける
濃さが均一になるよう、人数分の急須に1/3量程度ずつ、回し注ぐ。
「実は、煎茶は最後の一滴に旨みが凝縮されています。最後まで絞り切るように注ぎましょう」
Q 二煎目、三煎目の淹れ方は?
二煎目、三煎目も、お湯の温度は同じ80℃が目安です。お湯を冷ますときは、茶碗がなければ別の器や、湯冷ましなどの道具を用いてもよいでしょう。お湯を急須に淹れ、ふたをしたら待ち時間はなしで、すぐに茶碗に注いでください。またお湯出しした煎茶はすぐに酸化してしまうので、保存せずに飲みきりましょう。
【新茶の淹れ方②:冷たく楽しむ】水出しで15~20分抽出して、旨みと甘みたっぷりな味わいに
「水出しの場合も、通常の煎茶の場合は水で20分程度が抽出時間の目安ですが、新茶の場合は10~15分と、短めの時間で抽出します」
<道具と茶葉>(2〜3人分)
- ポット(急須やボトルでもOK)
- グラス(人数分)
- 新茶の茶葉…約10g(大さじ軽く2杯が目安)
- 冷水または常温の水…200~300ml(今回は氷を入れた冷水を使用)
「水の量が400mlを超える場合は、茶葉を15g程度に増やします。以降、水約100mlごとに約3g(小さじ1杯程度)を目安に茶葉を増やしましょう。水は常温でも冷水でも問題ありません。冷水の方が旨み・甘みがより強く感じる味わいになります」
<淹れ方>
1. 新茶の茶葉をポットに入れ、水を注ぎ、10~15分蒸らす
新茶の茶葉をポットに入れ、水を注ぐ。ふたをし、そのまま10~15分常温において抽出する。
「通常の煎茶が20分程度の抽出時間に対し、新茶の場合は10~15分が目安です。ポットは分量の水が入る大きさであれば急須でも、ボトルでも問題ありません。水を含んでほどけた新芽の茶葉がどんどん落ちてくる様子を目で見ても楽しめるので、透明な容器を使うのもおすすめです」
Q 水出しで400ml以上淹れる場合の抽出時間は?
400ml程度を抽出する場合は、抽出時間はやや長めに20分ほどが目安です。さらに1リットルなど、たくさん作ってごくごく飲みたい場合は、一晩冷蔵庫に入れっぱなしでじっくり時間をかけて抽出してもよいでしょう。
2. 人数分のグラスに回し注ぐ
急須で淹れる場合と同様に、濃さが均一になるよう人数分の急須に1/3量程度ずつ、回し注ぐ。
「二煎目の場合も、同じく常温または冷水をポットに注ぎ、5~10分ほどおいてグラスに注ぎます」
Q 余った水出し煎茶は保存可能?
ゆっくりと抽出した水出し煎茶は酸化がゆるやかなので、ポットからグラスに注いだ状態で冷蔵庫に入れておけば半日程度はおいしく飲めます。
以上、新茶をおいしく楽しむ、急須で温かく淹れるお湯出しとポットで冷たく淹れる水出しの方法の2つをご紹介しました。新茶を淹れる、というと少し肩に力が入ってしまいますが、いずれもコツはシンプル。水出し茶が10分ほどでできるというのも、目からうろこでした。
「煎茶の淹れ方は、必ずこうしなければいけない、という決まりはありません。水の温度や抽出時間で味わいがガラリと変わるので、ぜひ好みの淹れ方を見つけてみてください」
これなら気軽に新茶を楽しめそうですね。
【おすすめ新茶】<一保堂茶舗>フレッシュでエネルギッシュ! 今しか味わえない宇治の新茶
京都のお茶を専門に扱う<一保堂茶舗>からおすすめしたいのは、宇治の新茶。毎日楽しめるパッケージタイプ(上写真)のほか、簡単に楽しめる大容量ティーバッグタイプや贈答用の缶入りタイプと、用途に合わせてさまざまなタイプが選べます。
※取扱い:日本橋三越本店 本館地下1階 日本茶 和菓子
「初物」だからこそ、味わっておきたい新茶。この時季にしか出合えない季節限定のおいしさをぜひ楽しんでみてください。
取材協力/<一保堂茶舗>東京丸の内店
1717年に京都で創業した日本茶専門店。京都府南部の宇治川と、木津川に囲まれた山間で採れた茶葉を合組(ごうぐみ=ブレンド)し、銘柄ごとの味わいに仕上げて提供しています。京都本店、および東京丸の内店では店内喫茶を楽しめるのも魅力です。
商品の取扱いについて
記事で紹介している商品は、日本橋三越本店 本館地下1階 日本茶 和菓子、三越伊勢丹オンラインストアにてお取り扱いがございます。
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。
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