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2016.01.01

「初」に祈りを込める、日本のお正月の過ごし方とその意味

結んだおみくじ

あけましておめでとうございます。

歳時記を紐解いていると「初物」を大切にして、日本人は生活の中の見慣れたものやこと、振る舞いを新しい眼で再発見してきたことがよくわかります。とくにお正月は「初」のつく言葉が多いですね。

初日の出。初富士。
初詣、初夢、初笑い、初売り、初釜。
書初め、出初め式、仕事始め、歌い始めなど。

厳かな中にも祝祭的な、おめでたい響きがあるこれらの言葉。年越しで文字通り魂が新魂(あらたま)って、ゆっくり故郷に帰るような時間を過ごし、再びピシッと日常に戻っていく。そんな感じがこれらの言葉に表れています。

世の中を ゆり直すらん 日の始め(小林一茶)

猿のイメージ

大晦日から元旦の年の瀬をまたぐ時、大祓えや除夜の鐘で穢(けが)れを祓います。そしてその身を「白」にします。白は「素(しろ)」でもあり、素のまま生(き)のままに戻すことでもあります。ひとつの「リセット術」とも言えそうですね。白は新たに染まるための場所です。

「初」の字形は、真新しい白い布に鋏(はさみ)を入れる形とされます。「初(そ)め」は「染め」でもありますから、白が新たな色に染まる、または白い布に鋏が入って裁断されて新たな形を生んでいく。初は「うぶ」とも読みますね。初心(うぶ)、産湯(うぶゆ)、産土(うぶすな)の「うぶ」です。

ですから、新嘗祭(にいなめさい)の後、お正月事始めから年末にかけて家の大掃除をし、障子を張り替え、お庭の手入れをします。身も心も、暮らしの空間もそうして清められ、境界には山から切り出された松や竹で作った門松や、稲藁(いなわら)で編んだ注連(しめ)飾りを飾ります。松は「祀(まつ)りの木」冬でも緑の生命力や、長寿であることが、聖なる樹とされ、依り代となります。竹もかぐや姫が節と節の間の空間に宿るように、歳神様が宿ることができます。

注連縄は、雌雄の蛇が縒(よ)り合わさり、新しい命を生む形とも言われています。地方ごとに特色あるさまざまな形は、創意が凝らされ「長寿延命」、「子孫繁栄」、「家庭円満」を招きます。脱皮して命の更新をしていく蛇がとぐろを巻いている形や、鶴亀はもちろん、米俵、宝船、盃(さかずき)など、そのバリエーションはとても豊かです。

床の間には鏡餅がお供えされます。豪華なものは「蓬莱飾り」とも呼ばれ、東海の果てにあるとされる仙郷「蓬莱山」までも引き寄せてしまいます。扇やウラジロや橙、海老、ゆずり葉などなど、それぞれ語呂合わせや見立ても楽しいですね。こうした縁起物を供え、飾り、「かみさま」をお迎えする準備が整います。

しめ縄のイメージ

お正月もクリスマスも、実は新嘗祭と同じく「冬至」由来です。古くは洋の東西を問わず、太陽の力のもっとも弱まる日である冬至が1年の終わりであり、始まりでした。前回の記事にも書きましたが、門松とクリスマスツリー、注連飾りとリース、鏡餅とケーキ……、形は違えど意味するところはほとんど同じです。表象としての形、色、素材の違いは風土の違いでしょう。 

新しき 年のはじめに かくしこそ 千歳をかねて 楽しきをつめ (古今和歌集)

光陰矢の如し。時の流れはあまりに早く、忙しさや、自分のことだけに拘って、ふと振り返り、惜しむ時間すらなく過ぎ去ってしまいます。お正月や季節の間にあるお節供は、悪循環に陥ってしまわないように、時をゆっくりとさせて、60兆もの細胞が絶えず生と死を繰り返し、生命を更新している自分の身体や、身の回りの人々や、自然の息遣いに耳を澄ませる祈りの時でもあるのでしょう。

日本語の「かみ」については、いろんな説がありますが、僕は「か(微かな)み(尊いもの)」ではないかと思っています。「かみ」の「訪れ」は「音連れ」であり、その大袈裟でない音は日常の騒音の中では聞き取りにくいものです。「暗」や「闇」に「音」という字が入っているように、見えないものを感じるためにも、私たちは風が凪ぐように、水が澄むように、静かに待つこと、祭る、奉る時が必要なのでしょう。

線香のイメージ

1年という大きな節目に、願いを託されてきたさまざまな形の意味を辿ってみれば、季節ごとの自然のコードに、私たちの暮らしや生を重ね合わせ、過去と未来の接点である今を生きてきた列島の住人たちと想いを合わせることができそうです。さらにはそれがほかの風土から生まれたさまざまな形象との異同を知ることになり、地球上で生きている生命のひとつの種として、経済のことではなく本当の意味で「グローバル」な世界の見方に繋がるのではないかと思います。

申年。「申」の字のごとく伸びやかに、健やかに、寿(ことほ)ぎの2016年でありますように。

花と食で彩る日本の暦〜二十四節気『清明』_4塚田有一(つかだ ゆういち)

ガーデンプランナー/フラワーアーティスト/グリーンディレクター。 1991年立教大学経営学部卒業後、草月流家元アトリエ/株式会社イデーFLOWERS@IDEEを経て独立。作庭から花活け、オフィスのgreeningなど空間編集を手がける。 旧暦や風土に根ざした植物と人の紐帯をたぐるワークショップなどを展開。 「学校園」「緑蔭幻想詩華集」や「めぐり花」など様々なワークショップを開催している。

文: 塚田有一

写真:みやはらたかお

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