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2015.05.24

読み物・コラム

ローカルフード新紀行 第2回 :千葉県船橋市 イワシのつみれ汁/中川正子さん

その土地で愛され、食べ続けられてきた食材・料理。ほかでは知られていない、でもその土地の人たちはみんな当たり前のようにいただいている。そこにしかない、土地と記憶に染みいった「地域の味」を紹介するリレーコラム第二回。写真家の中川正子さんが、千葉県船橋市の実家でいつも食べていたあの味を教えてくれました。

イワシのつまった冷凍庫、食卓の記憶

小学生のころ、母がいないときに冷凍庫を開けた。ごろりと凍った鰯が大量に落ちてきた。凍った無数の目がこちらを見ていて、わたしは驚いてただ呆然と、だんだんと溶けていく鰯を見ていた記憶がある。鰯だらけの実家の冷凍庫。

鰯の産地、千葉県船橋市で育ったわたしの実家の食卓には頻繁に鰯がのぼった。鰯のフライ、鰯の梅煮、そして、鰯のつみれ汁。新鮮で安価な鰯を見つけるたびに、両親は大量に購入していつも冷凍庫にストックしておいたのだろう。育ち盛りの子どもたちのために。 たしか、圧力鍋が我が家に導入されたのも鰯を骨ごと煮るためだったような気がする。今日はつみれ汁よ、そんな日には父がすり鉢で力強くあたって鰯を頭から、皮も骨も全部いただいた。まるごとだからカラダにすごくいいんだぞ、と毎度言われながら食べると、ほんとうにカラダにいいような気がした。

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今回、ひさしぶりに母に頼んでつみれ汁を作ってもらった。鰯はかつてのように安い魚ではなくなっていて、少し高級な顔をしてあらわれた。鰯の頭を勢いよく手でちぎり、内臓をむしりとって骨をすっと取る。料理は自己流だから教えるほどのものじゃないのよ、といつも言う母の手つきは40年以上のベテラン主婦のものだ。 今は立派なフードプロセッサーが導入されたけれど、母は、つみれ汁はやっぱりすり鉢で作るのがウチ流よ、と父にその作業を託す。父は大きな手ですりこぎを握り、ごりごり、と慣れた様子でミンチにしていく。卵、しょうが、にんじんをすりおろしたもの、片栗粉、あとつなぎにちょっと麩もいれて(これは完全にママ流よ!と言いながら)できたなめらかなミンチをスプーンでぽとぽとと出汁の中に落とす。味噌を溶いて、最後に三つ葉を飾ってできあがり。 こどものころとまったく同じ味がした。これは皮も骨も入っているから、すごくカラダにいいのよ、と母が言う。

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18_local_04中川正子(なかがわ まさこ)  / 写真家

千葉県出身。留学先のカリフォルニア、Heywardで写真と出会い、 帰国後に山路和徳氏に師事。美しいランドスケープや自然な表情をとらえたポートレイトを撮り続け、雑誌、広告、CD ジャケットなど多ジャンルで活躍する。 現在は東京と岡山の二拠点で活動する。 写真集に『新世界』(2011年)PLANCTON刊、『IMMIGRANTS』(2013年)オクターブ(トリトン)刊

 

文: 中川正子

写真/中川正子
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。

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