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2019.01.27

読み物・コラム

奇跡の復活! 野菜の目利きが注目する土佐伝統「牧野野菜」とは?

その土地の気候風土に調和し、古くから作られてきた野菜「伝統野菜」。近年、一般に出回る野菜にはない味わいや見た目が見直されるなか、数十年ぶりに復活したことで注目を集める伝統野菜があります。伊勢丹のバイヤーも熱視線を送る「牧野野菜」なるその伝統野菜を作る農家さんと、復活への取り組みに迫りました。

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35年間探し求めた「潮江菜」の復活

左:畑の潮江菜 右:熊澤秀治さん

左:「潮江菜」。ツケナと呼ばれる非結球のかぶの仲間で草丈30㎝ほど。水菜や京菜の原種ともいわれる。味わいは濃厚で加熱すると旨みと甘味が増す 右:熊澤秀治さん。「薬が手に入りにくい時代から食べられてきた伝統野菜には、知られていない薬効があるんじゃないか」と考え、専門機関で調査中だとか。

「煮ると旨みが段違いで、もうサイッコ~に美味しいんだから!」。そう心底嬉しそうに話すのは、高知市で農業を営む熊澤秀治さん。有名レストランなどにも野菜を卸す熊澤さんが驚愕するほど美味しい野菜とは、昭和33年頃に絶滅したとされる高知市・潮江地区で作られていた「潮江菜(うしおえな)」です。

熊澤さんは22歳のときに高知出身の女流作家・宮尾登美子さんのエッセイを読み、かつて土佐の雑煮に使われていた「うしおえかぶ」の存在を知ります。以来、「地元潮江の名の付いた野菜を自らの手で作りたい」と思うようになり、その後、うしおえかぶは潮江菜の方言としての呼び方と分かったものの、何の手がかりもなく35年もの月日が経っていました。

一方、その潮江菜の種を実直に守り続けてきた人物がいました。高知出身の世界的植物学者・牧野富太郎博士に、「高知の在来野菜を調査と保存」を命じられた弟子の竹田功さんです。潮江菜を含む野菜の種を戦後間もない頃から保存。竹田さん亡き後はご長男に受け継がれていたのです。

竹田さんのご長男から熊澤さんの手に潮江菜の種が渡ったのは、潮江で種を託せる人を探す中、たまたま地元誌で熊澤さんを知ったからでした。しかし偶然にして運命的な出会いとなり、潮江菜を含む約50種類もの種を託された熊澤さんは、その野菜たちに敬愛する牧野博士の名をとって「牧野野菜」と命名。こうして牧野野菜の種が熊澤さんの畑に蒔かれたのです。

食のプロも認める牧野野菜のおいしさ

左:田村カブ 右上・右下:唐人豆

左:「田村カブ」。1~3㎏に成長する大型のかぶで、赤紫色の皮はアントシアニン色素を含む。加熱するとても甘く、食感がしっかりしているので煮物に最適 右上・右下:「唐人豆」。殻は約6㎝、豆は約3㎝になる大型の落花生。味が濃く香りは上品。江戸時代から栽培されていたとされ、日本では明治維新以降、アメリカから輸入した品種を商業栽培していることからすると希少性が高い

牧野野菜の種は、かぶ、大根、きゅうり、豆類、いんげん、ごま、そば、スイカなど。そのうち4種を除く種が発芽し、「潮江菜」「山内家伝来大根」「田村カブ」「焼き畑のカブ」「根木谷のネギ」「唐人豆」「土佐在来西瓜」、さらにきゅうり4種が高知県内で販売されるまでになりました。

「伝統野菜が途絶えたのは、おいしくないからだと思っていました。でも驚いたことに牧野野菜はどれも旨みが濃くて、物凄くおいしかったんです。昔は調味料や肉などの食材が豊富ではなかったので、より旨みや味の濃い野菜を残そうと、昔の人が選抜してきたことに気づかされました」と熊澤さん。

その言葉を裏付けるのが、〈パティシエ エス コヤマ〉の唐人豆を使ったショコラです。熊澤さんが世界的なショコラティエ・小山進さんに落花生の「唐人豆」を送ったところ、「他のどんな落花生よりも濃厚。ぜひショコラにしたい」と感じた小山さんがショコラを開発。フランス・パリでも披露されたのでした。今年から唐人豆の生産量の増加が決定し、今後の展開に期待が膨らみます。

「本当の復活」を目指して

左:種採取の様子、右:潮江菜の漬物

左:種の採取の様子。種を採取したり、交雑(品種が混ざること)に気をつけたり、栽培や収穫に手間がかかる 右:かつて作られていた「潮江菜」の漬物を再現して販売

「牧野野菜は栽培の手間や、揃いの悪さ、生産性の悪さなどの要因から商業作物に向かず、種の自家採取力も低下もしていき栽培が途絶えてしまった。二度とそうならないようチームとして野菜作りに取り組み、広めなければいけない」。そう感じた熊澤さんが結成したのが、「Team Makino」です。

栽培農家7名や集落営農3グループなど農業に携わる人以外にも、野菜ソムリエや行政機関、マスコミに携わる人々などがTeam Makinoの一員に。牧野野菜の選抜と種の採取の他、更新した種を採集地とされる地域に帰す活動や、地域の学校での食育活動、牧野野菜を使った商品開発など、牧野野菜の存続・普及活動に幅広く取り組んでいます。

「伝統野菜は『ファンタジー』じゃないんです。野菜として世に出回り続けないと、本当の意味での復活とは言えません。そのためには作りやすさ、おいしさを追求しなければいけない。牧野野菜の栽培には技術が必要で、農家さんの数も足りず安定供給はできていません。品種を改良することも時には必要だと私は思っています」。野菜作りを継続できるシステム作りが、求められています。

畑の田村カブ

牧野博士、宮尾登美子さん、竹田功さんら、自らを牧野野菜へと導いてくれた土佐の先人たちへの強い敬意を胸に、毎日潮江の畑で汗を流す熊澤さん。牧野野菜を作る喜びと興奮が伝わってきて、お話を伺っていると「天命」という言葉が何度も頭をよぎりました。現代に生きる熊澤さんだからこそできる挑戦を、これからも応援していきます。

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文:香取里枝

商品の取扱いについて

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