日本海からのインスパイア―諏訪綾子さんが見せる、石川県『絶景の食』_1

「七十二候のセンセーション」より六月の候「腐草為蛍・くされたるくさほたるとなる」SHOKU-E.COM/撮影 岩崎寛

おいしさの追求でも健康食品でもない、新たな「食の価値」を伝えることをテーマに活動するフード・アーティスト諏訪綾子さん。

2014年春から秋まで、石川・金沢21世紀美術館の開館10周年を祝う展覧会「好奇心のあじわい 好奇心のミュージアム フードクリエイション+東京大学総合研究博物館」を開催。

「ミュージアムとは何か」「これからのミュージアムはどうあるべきか」について考えるこの企画展も大好評で終了を迎え、石川県とは深いつながりを持つ諏訪さんに、そのクリエーションの源となる原風景について訊きました。

大自然に囲まれた能登で、自然の脅威に見出した美

諏訪さんが生まれたのは、金沢から能登方面に車で1時間ほどのところにある羽咋(はくい)市。その土地には、村人を襲っていた“怪鳥”をイワツクワケノミコトというヒーローが3匹の犬とともに倒したという逸話が残り、「羽を喰う」から、「羽喰(はくい)」、そして現在の名前へと変化していったと諏訪さんは語ります。

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「能登は半島で行き止まりだからか、金沢に比べると少し土っぽくて、文化も人も濃いんです。海も山も近いから、自転車に乗って出かければ、海には見たことのない鮮やかな青いクラゲなんかが打ち上がっていて。子どもだったので、行動範囲は狭かったと思うんですけど、たとえば自然の花を覗き込んだときに広がる、規則正しくびっしりと並んでいる花粉や虫の卵、きれいな光に反射する雨のついた蜘蛛の巣とか、そういうある意味グロテスクな自然の美しさにものすごく興味があったんですね。何だかわからないけど目が離せないみたいな、自然の脅威に惹かれたんです」

フードクリエイションは、幼少期のおままごとがきっかけ?

共働きの両親に育てられ、ひとりで遊ぶことが多かったという諏訪さん。友だちと遊んでいても、暗くなると最後にはひとりぼっち。そんなときは、自分の内面と交信しながら遊んでいた記憶があるんだとか。

「友だちが来たら注文してもらって振る舞うという設定で、頭の中でメニューを開発してたんです。実際に食べられる食材ではなく、身の周りにある花びらとか花粉とか雄しべ雌しべ、木の実、池にある生き物やとかげのしっぽ、セミの抜け殻とかでしたけど。そういうものをたくさん集めて、食材に見立ててお料理を作って、レストランを開いていたんです。今になって思い返すと3~4歳くらいから、ゲリラレストラン的なことをやっていたんですよ(笑)」

国内外で大好評を博す、ゲリラレストラン

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ゲリラレストラン at 近江町市場(2015年3月)写真/ N・O・D 野田啓

ゲリラレストランは、シンガポール、パリ、ベルリン、香港、福岡、東京など国内外で続けているパフォーマンスのこと。レストランがありそうもない場所に、数日間だけゲリラ的にあらわれるレストラン。2008年に諏訪さんが金沢21世紀美術館で初めての展覧会をした際、展示室のなかで、喜怒哀楽のいろんな感情のテイストをフルコースであじわうというレストランを開いたことが転機になり、現在まで続く諏訪さんの代表的パフォーマンスに。3月14日には、北陸新幹線開通を記念して、近江町市場にてゲリラレストランを開催。一年間、金沢21世紀美術館と共に行ってきたプロジェクトのフィナーレを飾りました。

「金沢21世紀美術館の展示が終わったあと、美術館から飛び出して金沢の街中でやるというのがもともとプログラムの条件としてあったんです。近江町市場は、金沢の食を象徴する場所だと思いますし、私も小さな頃から通っていたすごく思い入れがある場所。美術館のなかにあったゲリラレストランをそのまま市場で開催することで、美術館には普段来ない通りすがりの人たちも、感情のテイストをあじわってる人の表情や反応、運ばれてくるものを見て、想像で味わうことで好奇心を味わってもらえたんじゃないかと思います」

石川の食文化を再発見! 金沢と東京を行き来する日々

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「七十二候のセンセーション」より六月の候「蛙鳴き始める」shoku-e.com/撮影 岩崎寛

金沢美術工芸大学在学中は気づけなかった石川の食文化と自然の豊かさに、卒業後、離れて初めて気づいたという諏訪さん。その後、金沢21世紀美術館の展覧会、そして金沢の酒蔵・「福光屋」とのコラボレーションの話が舞い込むなど、金沢との縁が徐々に広がっていったのだといいます。

「お盆とお正月の年に2回は実家に帰っていたんですけど、その度にあじわいの再発見があって。石川の食の魅力はありすぎてどれから話していいのかわからないくらい(笑)。たとえば、金沢の人たちって旬や初物を大切にしていて、11月後半になるとコウバコガニというズワイガニのメスの漁が解禁になるんですが、期間が1ヵ月と短いんですね。その時期は、町中の挨拶が「カニ食べた?」になる(笑)。彼らには美食家という意識はなくて当たり前のことなんだけど、東京の人から見ると、みんな美味しいものを食べていて、こだわりがあるように思えてしまうんですよね」

その理由は、「金沢の人は土地と食べ物に誇りを持っているから。金沢21世紀美術館をきっかけに変わったと思います」と諏訪さん。伝統は守り続けながらも、新しいものも受け入れて変化していく。革新を積み重ねて、それが伝統のようになっていくというのが金沢流なのだそう。

金沢の老舗酒蔵「福光屋」や北陸製菓とのコラボレーション

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2008年から2年の構想を経て、諏訪さんは福光屋さんとのコラボレーションプロダクト「エモーショナル・エッセンス」を完成させます。これは、あじわうパフューム、エモーショナルエッセンスをスポイトで一滴落とすと、「喜びのテイスト」「せつなさのテイスト」「心地よさのテイスト」「怒りのテイスト」と異なる4つの感情をあじわうことができるというもの。

「それぞれをブレンドもできるし、食べ物や飲み物に垂らしてあじわうこともできる。たとえば、『心地よさのテイスト』をコーラに垂らすと大人っぽい味になるんです。感情は単一ではなく、複雑に混ざりあい変化していくもの。ゲリラレストランでは、これをパフュームのアトマイザーで口に吹きかけてあじわう『一瞬で沸き起こる怒りのテイスト』もメニューのひとつです」

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ゲリラレストランのメニューとしても登場する、ジュエリーのようなカンパン、あるいはカンパンのようなジュエリーも金沢のお菓子メーカー北陸製菓とのコラボプロダクトだそう。昔ながらのカンパンを新しく見せたいという依頼から生まれたアイディア商品。黒胡椒やカルダモン、いちじくペーストなどが入った、少しスパイシーな「好奇心をあじわうテイスト」は、食べて味わっても、ジュエリーとして身に付けても、眠っている好奇心を掻き立ててくれる一品になっています。

 

自分の中に眠っている感覚と出会う、体験としてのあじわい

こうしたフードクリエイションの活動のモチベーションとなるのは、当たり前に毎日繰り返す、食べることとあじわうことを通じて、眠ってる感覚や欲望が目覚めたり、好奇心を体験するきっかけを作りたいという想いだといいます。そんな諏訪さんを夢中にさせているのが、「体験としてのあじわい」というテーマなのだそう。

「人間って、目で見た情報で、味を半分くらいあじわうことができると思うんです。今までの経験や知識から想像した味を食べる前に既にあじわい、食後に比較検討する。そういう意味で、食べ物ってちょっとだけ罠に似ていますよね(笑)。記憶に残るあじわいをもっとつくり出すためにも、単にモノとしての食べ物ではなく、それにどんな光が当たっていて、どんなお皿に載っていて、どんな空間で、誰が運んできて、運んできた人はどういう人で、味わう人はなぜそこに来たのか、そのシチュエーション全体を通したあじわいをつくることを追求していきたいと思います。だからこそつくりだせる、想像上のあじわいは無限大の可能性があります」

日本海からのインスパイア―諏訪綾子さんが見せる、石川県『絶景の食』_ayako_suwa諏訪綾子 /フードアーティスト・food creation 主宰

1976年 石川県生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、2006 年よりfood creationの活動を開始、主宰を務める。 2008年に金沢21 世紀美術館で初の個展「食欲のデザイン展 感覚であじわう感情のテイスト」を開催。 同時期に伊勢丹新宿本店の食品フロアにて同コンセプトのパフォーマンスを実施し、食とアートの各領域から高い評価を得る。 現在までにシンガポール・パリ・ベルリン・香港・福岡・東京など、国内外でパフォーマンス「ゲリラレストラン」を開催し、 人間の本能的な欲望、好奇心、進化をテーマにした食の表現を行い、 美食でもグルメでもない、栄養源でもエネルギー源でもない新たな食の価値を提案している。

文: 小川知子

写真/森本菜穂子

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