左:アラン・デュカスのNATURE VOLUME 2, 中央:アリス・ウォータースのCHEZ PANISSE FRUIT,右:マーサ・スチュワートのMARTHA STEWART'S VEGETABLES

食の安全、地産地消、オーガニック、食育……。美食の追求とは異なるベクトルからも、食への関心が高まり続けているなか、洋書からも世界の意識の変化を知ることができます。

本から世界各国の食文化を紐解いていく連載第3回目は、食のアイコンともいうべき3人の著書からスローフードの「今」を紹介。

案内人は、代官山 蔦屋書店、料理コンシェルジュの後藤奈岐さんです。

スローフードの母アリス・ウォータースの『CHEZ PANISSE FRUIT』

アリス・ウォータースのCHEZ PANISSE FRUITの表紙と中面

アメリカの食事といえば、ハンバーガーに山盛りのポテト、そこにビッグサイズのコーラも付けて……、というのは、どうやらひと昔前のイメージになりつつあるようです。

以前、NHKでも特集が組まれたアリス・ウォータースは「アメリカのスローフードの母」と呼ばれる女性。スローフードという言葉がイタリアで生まれる以前の70年代から、地元バークレーで地道に地産地消、オーガニックフードの普及に努め、90年代からは食育などへの取り組みで注目を集めました。

「旬のものを食べよう、一緒に料理をしようなどシンプルで実行しやすい9つのメッセージを掲げ、食で世界を変えることを目指した彼女の活動は、『おいしい革命』と呼ばれています。食育への取り組みも熱心で、生徒とともに学校の敷地に菜園作りを行いながら荒れた学校を再生する『The Edible Schoolyard』は、全米からさらに世界へと広がりつつあるんです」

現在、彼女が経営するレストラン「シェ・パニース」は、全米で最も予約がとれない店と言われるほどの存在に。

「かつて地元の小さなレストランでスタートした活動でしたが、オバマ前大統領時代には彼女がミシェル夫人の依頼でホワイトハウスに菜園を作るなど、今やメインストリームに。アメリカ全体の食への意識が大きくシフトしていることを感じます」

アリス・ウォータースの哲学を深めるなら手にとりたいシェ・パニースのレシピ本『CHEZ PANISSE FRUIT』

アリス・ウォータースのCHEZ PANISSE FRUITの挿絵

そんな彼女の思想への入門書としては、日本語版も出版されたレシピ本『アート・オブ・シンプルフード』がおすすめ。そこからさらに一歩深めたいなら、「『シェ・パニース』の食材へのリスペクトが詰まった『CHEZ PANISSE』シリーズをぜひ開いてみてほしい」と後藤さんはいいます。

「シンプルな構成で、それぞれの食材ごとにアリスの哲学とレシピが寄せられた本です。フルーツ編のほかに、野菜編もあります。内容はもちろんなのですが、装丁が美しいんです。挿絵はパトリシア・カータンという地元バークレー出身の版画家によるものですが、彼女は『シェ・パニース』の通常のディナーや、特別ディナーなどのメニューも手がけ、メニューの版画だけを集めた作品集も出版されています。世界一予約のとれないレストランの雰囲気が、ほんの少し感じられるのではないでしょうか」

あのカリスマ主婦のスローな今。『MARTHA STEWART’S VEGETABLES』

マーサ・スチュワートのMARTHA STEWART'S VEGETABLESの表紙と中面

マーサ・スチュワート=90年代に一大ムーブメントを起こしたカリスマ主婦……として記憶している人も多いのではないでしょうか。

そんな彼女の近年のレシピ本を開いてみると、ここからもスローフードの意識がアメリカに浸透している片鱗が垣間見えるとか。

マーサ・スチュワートのMARTHA STEWART'S VEGETABLESの写真

「『MARTHA STEWART’S VEGETABLES』は、ベジタリアン向けの料理本ではないのにも関わらず、野菜をメインに据えていて、しかもイメージとして掲載されている野菜を見ると形が不揃いだったり、泥が付いていたりと、スーパーなどでよく目にする均一な野菜ではないんですね。大衆が憧れる存在だったマーサ・スチュワートがこういった食材の魅力を積極的に伝えるようになったことに、パラダイムシフトが起こっていることを感じられるのではないでしょうか」

フレンチの巨匠も「シンプル」へ回帰。『NATURE VOLUME 2』

アラン・デュカスのNATURE VOLUME 2の表紙と中面

最後に紹介するのは、フレンチの巨匠、アラン・デュカスのレシピ本。

「本のタイトルは『NATURE VOLUME 2』。日本語版も刊行された『ナチュール』の続編です。もともとフランスは、日本やアメリカに比べると、20世紀半ば以降に起きた大企業や大手組合による食の画一化を免れた国といえるでしょう。マルシェなども盛んで、地産地消も根付いている国です。しかし、そんなフランスにおいてフランス料理を牽引するシェフが、今、あらためてシンプルでヘルシーなレシピを提案していることに、一過性で終わらない世界的なムーブメントが感じられるのではないでしょうか」

アラン・デュカスのNATURE VOLUME 2の写真

力が抜けたかわいいイラストが添えられていたり、明るいマルシェでデュカス氏が食材を選ぶ写真が載っていたりと、フレンチなのに気負いのない雰囲気も魅力。手に取ってみれば、フレンチの概念が大きく変わるかもしれません。

地産地消、オーガニックなどの言葉は日本ではまだまだストイックにも感じられ、口に入れるものすべてを徹底するのはなかなか難しいもの。ただ、意識するだけでも日々の食の選択が少しずつ変わってくるはず。食は人生の基本。新しい季節のはじまりに、世界の食のトレンドを洋書で楽しみながら、いつもの食卓をほんの少し見直してみてはいかがでしょうか。

後藤奈岐さん

代官山 蔦屋書店 の後藤奈岐さん

代官山 蔦屋書店で食関連の本を担当する料理コンシェルジュ。「ル・コルドン・ブルー」でフランス料理を学んだ経験と、翻訳業で培った語学力を活かし、世界中の本の選定や、プロの料理人を招いてのイベント運営などを行なっている。

代官山 蔦屋書店
電話:03-3770-2525
住所:渋谷区猿楽町17-5 

文: 斉藤彰子

写真:山田和幸 

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