『180℃』の表紙、『MAN&FOOD』の表紙、『les Cahiers de delphine』の表紙

美しくデコレーションされた、美味しそうな料理。そのひと皿が食卓に並ぶまでには、収穫された食材が海や山を越え、幾人もの手を経てきた過程があります。そこにはさまざまな物語が生まれ、美食追求とはまた異なる「人と食」との関係が見えてくるはず。
たとえ海外旅行は叶わなくても、食のためなら想像の羽根をどこまでも羽ばたかせてしまう――そんな食いしん坊で好奇心旺盛なみなさまに、本を通じて世界の食文化をナビゲートするこの連載。
案内人を務めるのは、代官山 蔦屋書店の料理コンシェルジュ・後藤奈岐さん。

第2回目は、料理やレシピそのものだけでなく、食材の調達や加工など、食をとりまくさまざまな側面にスポットを当てた、コンセプチュアルな雑誌『180℃』を紹介します。そこに描かれているのは、ついさっきまで生きていた動物が、その場でさばかれ、人間の胃袋へ運ばれるという生々しいリアルな食の現場。日本の料理本ではなかなか読めるものではありません。

「生産者」にフォーカスした食雑誌『180℃』

雑誌『180℃』の表紙

分厚い装丁に、木の枝? 葉巻?? と見紛う不思議な物体(実はマテ貝です)をとらえた陰影の強い写真……。一見して、とても料理雑誌とは思えない『180℃』は、フランスの出版社THERMOSTATから発行されています。
「コンセプトは『食をとりまくすべて』。レシピだけでなく、その料理に使われている材料がどのように作られているのかという生産者の現地報告がしっかり書かれています。たとえばソーセージを取り上げる場合、フランスとスペインの国境の町、アルデュードに足を運び、そこで幻の豚と呼ばれているバスク豚を生産している農家に取材しています。ひと皿の料理が生まれるまでの物語や、食と人との関係にスポットを当てた情報誌です」

雑誌『180℃』の中面

写真のページで紹介されている生産者は、絶滅寸前の品種だったバスク豚の純血種を守り、後世に伝えるという目的を持って会社を立ち上げたんだそう。そしてバスク豚を保護し、安定して生産できる環境を整え、「幻の豚」と呼ばれるブランドに育てたのです。美味しそうなソーセージの料理を紐解けば、そこにあるのは壮大な物語でした。
ユニークなのは、読者に料理の裏側を見せることで食について考える機会を促そうという、そんな挑戦的な内容を掲げた本誌が決してプロ向けではなく、あくまで一般の読者向けの定期刊行物であるということです。
「さすが食への関心が高いフランスならでは、という印象ですよね。たとえば『ELLE à table』のように、きれいにスタイリングされた料理写真で、都市生活者の食卓にフォーカスしたように見える雑誌がある一方で、本誌のような真逆とも捉えられるテーマの雑誌も共存している。食への懐の深さも感じます」
さらに輪をかけてユニークなのが不定期で刊行されている『180℃』の別冊です。いくつか発行されているなかから、ここでは、『MAN&FOOD』と、『les Cahiers de delphine』(デルフィーヌのノート)を紹介します。

これが食の情報誌!? 写真の力強さに圧倒される『MAN&FOOD』

雑誌『MAN&FOOD』の中面

大自然のなかで骨付肉にかぶりつく民族衣装の女性と子供。加工された食材が当たり前のように食卓に並ぶ現代日本を生きる私たちの目からは、あまりにも遠くの出来事に感じます。その一方で、食という行為についてハッと考えさせられる写真かもしれません。

「世界の民族とその土地の原始的な食を知ることができるのが、『180℃』の別冊のひとつ、『MAN&FOOD』です。オセアニア、ボリビア、グリーンランド、タンザニア……など、世界各国の原始的な食材にスポットを当てています」
地球上のどんな土地にも人間が住むところ、そこには必ず食材との無二の関係が築かれています。本誌に登場する原住民の料理は、その生活環境と密接に関係した食材を用いたもの。冷蔵庫に365日当たり前のように食材が揃っている私たちとは異なります。置かれた環境で生きていくために、より密接に食と向き合っているのです。力強い写真に写る未知の料理に、「一体、どんな味がするのだろう?」 と想像をめぐらせつつ、人間のパワーを思い知ることができる一冊です。

雑誌『MAN&FOOD』の表紙 

季節の食材を使ったシンプルなレシピ集『les Cahiers de delphine』(デルフィーヌのノート)

『les Cahiers de delphine』(デルフィーヌのノート)の中面

もう1冊は、一転して少女の手書きノートのような愛らしい体裁のレシピ集。

「日本語で、『デルフィーヌのノート』と直訳することができる本書。料理家兼フードスタイリストで、『180℃』に関わる編集者のひとり、Delphine Brunet(デルフィーヌ ブルネ)が考案したものです。季節の食材を使ったシンプルで栄養バランスのよい料理のレシピを紹介しています」

『les Cahiers de delphine』(デルフィーヌのノート)の装丁

1冊80ページの手帳サイズ。化粧箱に収まった様子もとってもキュート。中身を見ると、写真は一切なく、料理はすべて著者による手描きのイラスト。キッチンの戸棚にそっとしまって、何度も開いて楽しみたい……そんな気分にさせてくれるレシピ集です。もちろん眺めるだけでなく、季節の食材探しの参考にもなります(多少のフランス語を勉強する必要がありますが)。

美味しそうな料理を掲載するだけが料理書ではない、食とは何かを考えさせてくれるコンセプチュアルな食雑誌『180℃』、いかがでしたか?
日本の料理雑誌とはひと味違う凝ったデザインや写真にはパワーがあり、眺めるだけでも感性を刺激されるはず。食について、さらにもう一歩踏み込みたい方、必見です!

後藤奈岐さん

後藤奈岐さん

代官山 蔦屋書店で食関連の本を担当する料理コンシェルジュ。「ル・コルドン・ブルー」でフランス料理を学んだ経験と、翻訳業で培った語学力を活かし、世界中の本の選定や、プロの料理人を招いてのイベント運営などを行なっている。

代官山 蔦屋書店
電話:03-3770-2525
住所:渋谷区猿楽町17-5 

文: 斉藤彰子

写真:山田和幸

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