幅允孝のよく噛んで読みましょう #5 「くらしのこよみ」 

時に味わい深く、時に人生の栄養となるのは、ひと皿の美味しい料理も、1冊の素敵な本も同じなのかもしれません。ブックディレクターの幅允孝さんがそんな「よく噛んで」読みたい、美味しい本たちを紹介してくれるこの連載。今回紹介するのは、1年のはじまりにふさわしい1冊。新年に目を通せば、新たな気持ちで丁寧に1年を暮らせそうです。

新年に眺めたくなる「毎年使えるカレンダー」

くらしのこよみの表紙

新年を迎えるにあたって、心改めたいとは毎年思う。実際にきちんと改まるかはさておき、新しい気持ちや決意をもって周りを眺めてみたいと感じる。そんな時、自身のくらしや移りゆく季節を鑑みる本がいいと思うのだけど、僕の場合は結局この『くらしのこよみ』を薦めることに行き着いてしまう。 

これは2011年に出版されたビジュアル歳時記。ダウンロード版もあるけれど、やはり紙の本がいいかなと個人的には思う。

日本には春夏秋冬と豊かな四季があるけれど、本当は七十二もの季節が存在することを教えてくれるこの1冊。地球から見た太陽の通り道「黄道」の一周365度を15度ずつ区切った「二十四節気(にじゅうしせっき)」。それをさらに3つに区分した「七十二候(しちじゅうにこう)」。より細やかな季節の表情を伝える「二十四節気七十二候」を知ることで、移り行く日々を噛みしめることができる。

旬のさかな、旬の野菜を噛みしめる

くらしのこよみの中面

早速ページを開いてみよう。春のページは旧暦の正月である「立春」という二十四節気から始まり、その「立春」も「東風解凍」(はるかぜこおりをとく)、「黄鶯睍睆」(うぐいすなく)、「魚上氷」(うおこおりをいずる)という七十二候の第一候〜三候に分けられる。ひとつの候は大体5日程度。そんな短いインターバルで、季節は移り変わっているのだ。

「東風解凍」を見ても明らかなように、その時期の自然の風景や動植物の変化をそのまま季節の名にする「七十二候」。2月4日から8日頃までを指す「東風解凍」のページをぱらりめくると、春の兆しとなるあたたかい東風が冬に厚く張った氷を溶かしてゆくという解説からはじまり、「立春や野に立つ棒を水つたひ」という中村苑子の俳句が紹介される。そして、次ページの見開きいっぱいには《旬のさかな》として伊勢海老、《旬の野菜》として蕗の薹(ふきのとう)がひろがる。

この《旬のさかな》と《旬の野菜》が僕は愉しみで、暇があればこの本をひらいて旬の食べ物を調べるようになった。実際、四六時中食べたいものが食べられる有難い世の中だからこそ、ささやかな時候に敏感でいたいと思えるし、カリフラワーや海苔の本当の旬を僕はこの本で初めて知った。

パラパラめくるだけで新しい発見があるビジュアル

くらしのこよみの中面

また、本書のよいところはそれらを伝えるビジュアルが優れていること。例えば、先述の伊勢海老は高木春山(たかぎしゅんざん)の『本草図説』から引用されている立派な絵と、『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』の絵が使われている。百科事典の出版社として有名な平凡社の本だからか、美しい絵、写真、イラストなどのビジュアル満載で二十四節気七十二候を伝え、好きな時に好きなページを眺めても読んでも愉しい1冊なのである。

さらには《季節のせいざ》や《季節のたのしみ》と称して星座や祭りを紹介するページもあるし、めまぐるしいスピードで過ぎ去っていく日々をしっかりと味わうにはうってつけの1冊ではなかろうか?

俳人の小澤實(おざわみのる)、折形(おりがた)デザイン研究所の山口信博、染織史家の吉岡幸雄という日本文化をよく知る3人が中心になってつくられた「うつくしいくらしかた研究所」発行の『くらしのこよみ』。ぱらぱらと意図なくめくっても、必ず新しい発見がある優れものの「毎年使えるカレンダー」だと思う。

幅允孝

Profile

幅允孝(はば・よしたか)

ブックディレクター/BACH(バッハ)代表。
人と本がもうすこし上手く出会えるよう、さまざまな場所で本の提案をしている。

文: 幅允孝

写真:山上新平

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