ローストチキンをスライスするイメージ

おいしさを語る言葉を、私たちはどれほど持っているでしょう。これほど多様な、美食といえる料理、素材、知識が手の届く場所にある現代の日本で、その豊かさに対応する言葉や論理は貧困なままではないでしょうか? 著作『美味しい料理の哲学』にて料理、そしておいしさを思考し、食の体験をより豊かにすることを目指した廣瀬純さんによる美食の哲学講義。第一回のテーマは、「切断」です。

「切断」が料理を発生させる

スライスされるきゅうりのイメージ例えば、キュウリ。キュウリはさまざまな仕方で「切断」することができます。そのままキュウリをかじる「切断」。梅肉などと和えるための大粒の「切断」、透けるほど薄い「スライス」は、しんなりと酢の物または氷水でぱりっとさせて爽やかなサラダに。千切りにすれば冷やし麺のアクセントにもなります。

重要なのは「切断」によってキュウリの味があからさまに変化するという点です。あたかも一本のキュウリにはさまざまに異なる無数の「おいしさ」が潜在していて、そのなかからひとつの特定の「おいしさ」が切断の仕方に応じて引き出されてくるかのようなのです。漬け物のキュウリでもスライスする角度や厚さなどに応じてまるきり異なる味になることは、皆さんも経験としてご存知だと思います。

フランス人哲学者のジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリは『アンチ・オイディプス』という日本でもよく知られたとても有名な共著で「切断」を論じているのですが、彼らはその一例としてハムを取り上げて、次のように書いています。

「どんな機械も、何らかの連続した物質的フロー(流れ)との関係のなかで働くものとしてあり、フローをスライスする。どんな機械も、ハムのスライサーのように作動する。すなわち、フローを切断することで、そのフローから何かを抜き取るのである。〔…〕フローは、それ自体としては、ひとつの巨大な豚もも肉の無限かつ理念的な流れのようなものとしてある」(廣瀬・訳)

ドゥルーズとガタリの言っている「機械」というのは、たとえば動物や植物の身体を形成しているさまざまな器官、あるいはまた、さまざまな道具や構築物のことです。他方、「フロー」とは、気体状であったり、液体状であったり、固体状であったりする物質のさまざまな流れ、あるいは、言語や信号の流れのことです。ドゥルーズとガタリはそんな「機械」や「フロー」がさまざまな出会いを繰り返しているような場として社会や自然、宇宙を構想しているのです。たとえば、口は空気の流れを切断し特定の音を生産し、耳は音の流れを切断しそこから特定の意味を引き出す。目は光をスライスしそこから特定の映像を産み出し、植物の葉もまた太陽光を切断することで光合成を行っています。

興味深いのは、ここでドゥルーズとガタリが、ハムはスライスされない限り「巨大な豚もも肉の無限かつ理念的な流れ」というなにやら得体の知れないもののままにとどまると指摘している点です。ハムはスライスされることではじめて「ハム」になる。「ハム」になるのと同時に特定の「おいしさ」になるということです。フローは切断されることなしには流れない。実際、生ハムを生産している職人のうちには、小売店にカッティング、スライスの技術の熟練を求め、一定水準に達しているとみなし得る小売店にだけ取り扱いを認めるという人もいます。彼の求めるやり方に厳密に従った「切断」によってはじめて彼の定義する「おいしいハム」が産み出されるということです。

スライスされるハムのイメージ素材にどのように刃を入れるか。刃の傾きの僅かな違いがまるきり別の味、まるきり別の「おいしさ」を生じさせてしまう。包丁さばきが料理の誕生においていかに決定的であるか。和食であれば、お刺身、ハモの骨切りなどのことを思い起こしてみてください。素材の切断はたんに食べやすい大きさにするということでは微塵もないのです。今夜、料理になることを待っている買物かごのなかの肉塊やうろこをまとった魚、今朝まで土に繋がっていたかもしれない新鮮な野菜たちを「料理」にするのは、何よりもまず、皆さんの行う「切断」なのです。

ドゥルーズ=ガタリの追求した「切断」による「(おいしさの)生産」という哲学は、今日もあなたの食卓にのぼり、あなたの舌による証明を待っています。

 

廣瀬 純(ひろせ・じゅん)

龍谷大学経営学部教授(映画論、現代思想)。1971年生まれ。著書に『アントニオ・ネグリ 革命の哲学』(青土社)、『絶望論』『闘争のアサンブレア』(共著、ともに月曜社)、『蜂起とともに愛がはじまる』『美味しい料理の哲学』(ともに河出書房新社)ほか。2015年5月に最新刊『暴力階級とは何か: 情勢下の政治哲学2011-2015』(航思社)を上梓。映画批評、また欧州や南米の社会運動など幅広く思考し舌鋒鋭く語る論客。

文: 畠山美咲

写真: Thinkstock/GettyImages

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ルーフトップでバケーション気分! 伊勢丹のビアガーデン

伊勢丹新宿店 本館屋上のイタリアンビアガーデンのイメージ 伊勢丹新宿店 本館屋上のイタリアンビアガーデンのイメージ
伊勢丹新宿店 本館屋上のイタリアンビアガーデンのイメージ 伊勢丹新宿店 本館屋上のイタリアンビアガーデンのイメージ

<BEER GARDEN PLAN>料理+フリードリンクプラン(1名)4,800円(税込)から

都会とは思えない開放感たっぷりのルーフトップテラス。実はここ、伊勢丹新宿店の本館屋上のビアガーデンなんです。カジュアルなビアガーデンとは一味違う、美しく手入れされた芝生やウッド調のガーデンファニチャーは雰囲気たっぷり。サルヴァトーレ クオモプロデュースによる南イタリアを中心としたオリジナル料理で、バケーション気分を味わいにまた足を運びたくなる、そんな空間です!

文: FOODIE編集部

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イベントのご案内

【イベントのご案内】
今回、ご紹介した伊勢丹新宿店 本館屋上のイタリアンビアガーデン「SKY PARADISE BEER GARDEN」が下記の日程で開催中です。
会期:〜2017年9月24日(日)
 ※8月22日(火)、8月29日(火)は店舗休業日のためクローズ。
会場:伊勢丹新宿店 本館屋上=アイ・ガーデン
営業時間:午後3時〜午後10時
 ※8月の土・日・祝日 午後1時〜午後10時
ラストオーダー:フード 午後9時/ドリンク 午後9時30分
ご予約・お問合せ先:03-6890-0199(受付時間:午前11時〜午後8時)

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シドニー発のタイ料理が話題の予感!

Longrainのベジタリアンのベテルリーフ シドニーのLongrainの様子 Longrainのグリーンカレー
Longrainのベジタリアンのベテルリーフ シドニーのLongrainの様子 Longrainのグリーンカレー

モダン・タイ・レストラン<Longrain(ロングレイン)>

シドニーのモダン・タイ・レストラン<Longrain>が日本初上陸。そう聞いて、タイなのにオーストラリア? と思われたことでしょう。でも実は、シドニーはアジアの食文化が盛んなエリア。タイ料理も美味しく、洗練された独自のスタイルが形成されているんだそう。しかも<Longrain>は平日夜は予約の取れない人気店なんだとか。特に注目したいのはそのハーブ使い。東南アジアで噛む嗜好品と言われるキンマの葉の上に海老や野菜をのせた「ベテルリーフ」(写真1枚目)はどんな味なのか気になります! 今後話題の予感です。

文: FOODIE編集部

※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。

店舗のご案内

記事で紹介しているレストランLongrain(ロングレイン)は、2017年8月26日(土)オープン予定。WEBまたはお電話にて予約を承っております。

WEBサイト:http://longrain.im-transit.co.jp
電話番号:03-5424-1300
営業時間:月-金 11:30〜16:00/17:30〜23:00(L.O. FOOD 22:00/DRINK 22:30)
土日祝 11:30〜23:00(L.O. FOOD 22:00/DRINK 22:30)
住所:東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー 39階

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しっかり辛いのがうれしい! 豚肉のガパオ弁当

マンゴツリーデリのガパオ
マンゴツリーデリのガパオ

<マンゴツリーデリ>豚ひき肉のガパオ 803円(税込)

「今日はエスニック気分」という時に立ち寄るのが<マンゴツリーデリ>。ガパオには「豚」「豚の大辛」「鶏」「季節野菜」の4種類があって、とろんと半熟の目玉焼きがのっています。エスニック好きとしては「豚の大辛」にやみつき! 豚肉を、目玉焼きとジャスミンライスと混ぜるとちょうどいいスパイシーさになるんです。お弁当でも本格的なお店で食べるような満足度で、つい買って帰ってしまいます。

文: FOODIE編集部

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商品の取扱いについて

記事で紹介している商品は、伊勢丹新宿店本館地下1階=旨の膳/マンゴツリーデリにてお取扱いがございます。

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みなぎる力強さ。いわてのヤマブドウを1本にしたジュース

佐幸本店の完熟 山のきぶどう
佐幸本店の完熟 山のきぶどう

<佐幸本店>完熟 山のきぶどう(600㎖)1,944円(税込)

ぶどうジュースに「生命力」や「力強さ」を感じたのは初めて! そんな感覚を覚えるのは、岩手県で育まれた完熟ヤマブドウだけを収穫して絞った、ストレート果汁の「山のきぶどう」。ワイルドな渋みがあるのかと思いきや、感じるのはやさしい甘さと酸味。でもその濃厚さに自然の力を感じます。元気がほしいときにも味わいたい、フレッシュな1本です。

文: FOODIE編集部

写真:島村緑
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商品の取扱いについて

記事で紹介している商品は、伊勢丹新宿店本館地下1階=シェフズセレクションにてお取扱いがございます。

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超極細、その名も「白髪」! 極上の食感は一食の価値あり

三輪山本の手延べ素麺「銘品 白髪」 三輪山本の手延べ素麺「銘品 白髪」
三輪山本の手延べ素麺「銘品 白髪」 三輪山本の手延べ素麺「銘品 白髪」

<三輪山本>手延べ素麺「銘品 白髪」(90g)540円(税込)

見てください、この超極細の麺を!「白髪」の名の通り、麺の細さは直径約0.3mm。一般的なそうめんの1/3ほどの細さです。未だかつてこんなに細いものを箸ですくったことってなかったかも……。その味わいは想像以上にしっかり。一年間の長期熟成が生み出したコシと舌触りにびっくりです。そうめんのイメージが覆るこの味は、一食の価値アリ!

文: FOODIE編集部

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商品の取扱いについて

記事で紹介している商品は、伊勢丹新宿店本館地下1階=シェフズセレクションにてお取扱いがございます。
また、伊勢丹オンラインストアでもお取扱いいたしております。

伊勢丹オンラインストア

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