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2016.09.11

幅允孝のよく噛んで読みましょう #4 『きのこ漫画名作選』

きのこ漫画名作選ときのこ

時に味わい深く、時に人生の栄養となるのは、ひと皿のおいしい料理も、一冊の素敵な本も同じなのかもしれません。ブックディレクターの幅允孝さんがそんな「よく噛んで」読みたい、美味しい本たちを紹介してくれます。今月は食欲の秋にぴったり、「きのこ」にまつわる本です。

世にも珍しい、キノコ愛がたっぷり詰まった本

4分33秒の無音の音楽で知られる現代音楽家ジョン・ケージが、キノコマニアだったなんて知っていました?

なんでも、辞書の「music」という項のひとつ前にあったのが「mushroom」という言葉だったから、というのがその理由。音楽のあとに探求するものについて彼は辞書を片手に決めたのだろうか? 真偽のほどは分からないけれど、実際にケージは1962年にニューヨーク菌類学会の創立に関わり、キノコと自身の音楽の関係について語ったり、エリック・サティの音楽をキノコにたとえて評したりもしていた。

「芸術家とキノコ」というと、その魔性性や幻覚症状について想像してしまう方が多いかもしれない。けれど、この本を手に取る限りそれはキノコの一側面にまつわるステレオタイプだと気づくはずだ。では、なぜヒトはキノコに魅かれるのか?

今回紹介する『きのこ漫画名作選』の編者である飯沢耕太郎は写真評論家という肩書きを持ち、何冊もの優れた写真論を書いている人。そんな彼は一方では『世界のきのこ切手』や『きのこ文学大全』などのキノコ本をたくさん上梓している。そして、そんなキノコ愛の根っこには、キノコの多様性があるのだという。

日本には、名のついたものだけで3,000種類もキノコがあるらしいが、まだ名付けられていない種も含めると5,000以上、世界的に見たらじつに50万種も存在するというキノコの世界。「キノコというものに種という概念は当てはまらない」とは先述のケージの言葉だが、環境に適応してゆっくりと姿を変え、雌雄のない中間性や曖昧さを持つキノコの胞子活動は、一部の現代人を魅了しているのは確かだ。

キノコの多様性を装丁で感じよう

きのこ漫画名作選の装丁

凝った造りの本を次々と世に送り出すデザイナー 吉岡秀典による強烈な装丁の『きのこ漫画名作選』は、3,000部限定で作られた(限定でしか作れなかった)かなり特殊な1冊。赤、黄、黒、青など風合いの違う多種類の本文用紙を使ったページは、まさにキノコの多様性そのもの。そして、飯沢が選んだ18作品ものキノコに関する漫画も、内容はさまざまだ。時代もの、BL、宇宙人ものまで幅広いジャンル。ボリュームもさまざまで、大作から短編、4コマだってある。キノコの物語は、どこにでも寄生するのだ。古くは1962年に描かれた白土三平の作品から、2015年の新國みなみ作品まで、古今東西のキノコ奇譚は実に600ページ弱のボリューム。つげ義春、松本零士、萩尾望都、吾妻ひでお、みを・まこと、花輪和一などなど、各作家の個性をキノコがより濃醇に演出する。

きのこ漫画の金字塔『侵略円盤キノコンガ』

のこ漫画名作選の侵略円盤キノコンガき

なかでも編者の飯沢がこだわったのが白川まり奈の『侵略円盤キノコンガ』の全ページ掲載。この作品を飯沢は「きのこ漫画の金字塔」と呼んでいるのだが、それ一作品で単行本化できそうな200ページ近くもある作品をアンソロジーに収録するのは英断だったに違いない。確かに内容も単純な異星人侵略ものではなく1970年代のエコロジー思想とキノコという菌類の特性が実にうまく練り込まれている。

これからの季節は、さまざまな種類のキノコが店頭に並ぶけれど、その一つひとつに独特の味わいがあるはず。その差異を楽しみながら美味しい秋を堪能したいものですね。

幅允孝

Profile

幅允孝(はば・よしたか)

ブックディレクター/BACH(バッハ)代表。
人と本がもうすこし上手く出会えるよう、さまざまな場所で本の提案をしている。

文: 幅允孝

写真:山上新平 

商品の取扱いについて

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