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2016.07.20

「熟成魚」はなぜ美味しい!? 香りとうまみを引き出すプロの技

横浜市中央卸売市場本場水産物部 ムラマツ

 「魚は新鮮なものが一番!」と思っていませんか? 実は、一部の職人だけができる匠の技「神経締め」で締めた魚なら、肉と同様に「熟成」したものの方がうまみが強くなるんです。匠の技を持つ職人がいる店、横浜市場内の仲卸店・株式会社ムラマツを訪ねました。

 

「神経締め」は魚にストレスをかけない

日本の魚食文化は、新鮮さと素材の味を大切にすることが基本にあります。神経締めはほとんど魚を傷つけず、出血もさせないまま締めるテクニックです。魚を締めるときは頭を落として血を抜くことが多いのですが、実はその血液こそ魚の『香り』の源。体内に血液を留めることでより芳醇な香りを楽しめます」

神経締め

そう話してくれたのは社長の村松享さん。子供のころから仲卸店に立つ魚のスペシャリストです。解説をしてもらいながら、 さっそく神経締めをするところを見せてもらいました。

まずは頭部に小さな穴を開け、そこから脊髄に針金を通します。脊髄内部に徐々に針金を入れて神経を破壊していくと、魚が穏やかに脈を止めます。

その後魚は芯熱を下げ8℃で保存することにより、じっくりと熟成。徐々にうまみが引き出されるのです。

外からは見えない、脊髄の内側を通っている神経を探りあて、針金ほどのエリアを的確に突かなければ魚が暴れて傷がついてしまうため、技術を習得するには相当な鍛錬が必要です。

血液を留めることで、刺身の香りは豊かになる

マコガレイの刺身

魚を美味しいと感じる要素は、見た目、香り、食感、味、余韻の5つ。神経締めをした魚は、この5つの要素が最大限に引き出されます。

「特に香りが重要になるのは、刺身で食べる場合。血を出さずに神経締めをした魚の美味しさは格別です」

さっそく神経締めにしたマコガレイを試食してみると、しっかりとした歯ごたえと鼻腔に抜けるふくよかな香りを堪能できました。

その後の熟成でうまみがぐんと深まる

脈を止めた魚は、徐々に死後硬直していきます。硬直がピークに達した後は、脈の停止から硬直のピークに至ったのと同じ時間をかけて熟成し、最後は腐敗に至るのです。

神経締めによりゆっくり脈を止めた魚は、時間をかけて死後硬直するため、死後硬直にかかったのと同じ時間をかけて、ゆっくりと熟成します。魚が本来持っている身質の弾力を保ちながらも、しっかりうまみが引き出されるのです。熟成のスピードは魚の大きさによって変わり、たとえばマコガレイなら2、3日、カンパチ・ヒラマサなら5日、大きなクエなら2週間近くかかるんだそう。

締めた後、死後硬直がピークに達するころからが刺身の美味しい期間。一方、煮魚や焼き魚にする場合は、熟成しきってからが美味しい期間なんだとか。ふっくらとした身の食感、しっかりとした魚本来の味が楽しめます。

熟成魚を選ぶには、目利きの力を活用して!

魚

味に差が出るのであれば、どうしたって神経締めした美味しい熟成魚が食べたいのが人情。魚がゆっくりと熟成しているかどうかを見分けるポイントはあるのでしょうか。

「熟成の進み具合以外にも、魚を選ぶときのポイントは多数存在します。獲れた海域や獲り方、運ばれてくるまでの状態などの情報から総合的に判断しなければなりませんので、美味しい魚を食べたいときは、『イサキを買おう!』ではなく『今日は焼き魚にしよう』とまず調理方法を決めてから鮮魚コーナーの目利きに相談してください。プロがその料理にぴったりの魚をすすめてくれますよ」

同じ種類の魚でも、身質は季節や潮の流れによって変化するそう。たとえば夏が旬だと言われるアジも、「脂がのり過ぎている場合は刺身よりも焼き魚にしたほうが良い」「海域によっては刺身がいいものもあれば、酢締めやフライにいいものもある」など、美味しく食べるための調理法に違いが出るのだそうです。

うーん、確かに、自力で魚を選ぶのは結構難しいのかも。魚の美味しさは旬や鮮度で決まるというのは、実はとてももったいない「思い込み」だったようです。

奥深い魚の世界では、「案内人」である目利きの力が不可欠。美味しい魚に出合うためには、まずは良い目利きに合うことが重要なんですね。

株式会社ムラマツ

取材協力 株式会社ムラマツ
横浜魚市場内にある仲卸店。東京湾や神奈川近郊の地魚を中心に取り扱っている。社長の村松享さん(写真左)は11歳のころから魚の仲卸に従事。「さかなマイスター」の一期生として小売店の店頭や学校・企業で魚の美味しさを伝えるためのレクチャーを行っている。

文: 大川祥子

写真:八田政玄
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。

商品の取扱いについて

記事で紹介している商品は、伊勢丹新宿店本館地下1階=フレッシュマーケット/東信水産にてお取扱いがございます。
また、2016年7月23日(土)の午後1時~午後4時まで、東信水産では村松享氏が店頭にて販売いたしま す。
※天候などの事情により入荷がない場合がございます。
※一部取扱いのない商品がございます。

※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。

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