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2016.01.19

花と食で彩る日本の暦〜「小寒」、「大寒」

蝋梅

氷ばかり艶なるはなし。苅田の原などの朝のうすこほり。ふりたるひはだの軒のつらら。枯野の草木など、露霜のとぢたる風情、おもしろく、艶にも侍らずや。(心敬)

年明けて、一年でもっとも寒く大気も大地も冷え冷えとする季節を迎えました。二十四節気の「小寒」が「寒の入(かんのいり)」、そこから「立春」までの「大寒」を「寒の内(かんのうち)」と呼びます。

冬至より一陽起るが故に陰気に逆らう故益々冷る也(暦便覧)

『字統』によると「寒」の字形は、屋内に草を積みあげ、床には敷物を敷いて寒気を防ぐかたち。例年ワークショップなどで「冬」のイメージを聞いてみると「寒いから反対に炬燵とか、火を囲んでの団らんを思い出す」という方が多いのですが、動物が冬籠りをしたり、梢の冬芽(休眠芽)が幾重にも衣で包まれているように、寒い冬は生き物みんな、暖をとる工夫をして命を守るのですね。

この冬は暖かく、スキー場では「雪乞い」の祈祷までしているとか。ぼんやりとこのまま春になると、どこかに歪みが出るのではないかと心配ですが、それでも冬空はどこまでも澄んでいて、冬の夜空に星は輝きを増しています。冬らしさに想いを巡らせるよう、寒、凍、雪、氷、冷、冬などがつく季語を幾つか辿ってみましょう。

車の窓にはった氷の結晶

 

寒空の下でする「寒稽古」や「寒中水泳」「寒垢離(かんごり)」は、想像するだけで身が引き締まります。激しい稽古で心身が清められ、身体の芯や真を磨くのでしょう。禅宗寺院に住み込んでいた時の、冬の作務や座禅を思い出します。
お酒の「寒造」は「寒九」というもっとも寒さが厳しい寒の入から九日目の水を汲んで行いました。寒九に汲んだ水は清らかで、風邪の予防やお腹の薬になるとされ大事に飲まれていたそうです。清らかな雑菌の少ない水を使って白玉粉は「寒晒(かんざらし)」され、「寒紅」はこの水を使うとひときわ紅の色が鮮やかだと言います。冬の太陽の光と風に晒し、氷結と乾燥で作られる様子を表す「凍み豆腐作る」や「索麺(そうめん)干す」も冬の季語です。

夜空を見上げれば「寒月」が。研ぎ澄まされた三日月や明るい満月は孤高の青白さです。冬の天の川は「冬銀河」、豊作を告げる昴は「寒昴」、オリオンの三ツ星や北極星、北斗七星は宮沢賢治の童話でもよく知られており冬の夜空のシンボルですね。星々の輝きはことに宇宙の奥深さも感じさせてくれます。夜の海と同じように少し怖いくらいです。

霜柱

冬の月夜、雪原に月映える「雪あかり」。雪の降り積もった夜、外に出るとシンとした青白い世界に息を呑んだことはないでしょうか。雪はまた「雪月花」といいならわされ、日本人の美意識を象徴するもののひとつでもあります。「花見」「月見」と並んで「見る」ことで豊凶を占うものでもありました。季語にはどこか遠くから舞い飛んでくる「風花」もあります。雪は水が空気中で氷の結晶になったもの。その天から降ってくる雪を凝視して中谷宇吉郎さんは「雪は天からの手紙である」と書いています。落ちてくるそれを手のひらで受ければ、一瞬で溶けてしまう手紙は、はかなくなった人からの言伝なのかもしれません。

わが園に梅の花散る久方の天より雪の流れくるかも(大伴旅人)

万葉集では主に「白梅」が歌われています。大伴旅人は太宰府より戻り、庭に今は亡き妻と手植えした梅の白い花びらがはらはら散るのを雪と見立て、懐かしい人より届く天からの音信と感じ取ったのでしょう。

梅の佇まいを見ると鉄(くろがね)のごとき老木に白玉のような蕾は文人好み、花は清らかで、少なめが良く、痩せさらばえた枯淡(こたん)が尊ばれます。また、古くは冬の夜、香りで梅の花と知れることこそ風流とされ、「暗香浮動(あんこうふどう)」に春の訪れを感じ取りました。

雪のつく潅木(かんぼく)には「雪柳」があります。こちらも梅や桜と同じバラ科で、細かい花がまず咲きます。「小米花(こごめばな)」「えくぼ花」「噴雪花(ふんせつか)」などの別名を持ち、柳のようにやわらかな枝に小さな白い花が群れて咲くので、山の斜面に群生しているとまるで雪のようだといいます。

雪の多い土地で育った人ならば、「雪洞(ぼんぼり)」や雪で作った神の蔵「かまくら」も幼な心をくすぐりますね。「雪だるま」や、ゆずり葉の耳、南天の実の目、「雪うさぎ」も作ったでしょうか。

「冬の美」の再発見が、春、夏、秋を感じる源となる

水仙

冬至から徐々に太陽高度は高くなって日脚も伸びてまいります。太陽の光は、大きな掌で大地を再び温め始め、高度の上昇とともに土もぬるみ、動植物は眠りから覚めていきます。先ほどの梅のほか、山茱萸(さんしゅ)や蠟梅(ろうばい)、満作などがそれぞれの黄色で咲くでしょう。暖かい今年の正月は、蠟梅が去年の黄葉(もみぢ)をつけ残したまま咲いているのを見かけます。産毛をまとった綿棒のような蕾が膨らんで、やがて冬の空の青に香りとともに開く蝋質の花弁が美しいのです。

凍てついた冬に、雪や霜を割って先駆けて咲くのは福寿草。水仙は群れて甘やかな芳香を漂わせます。海へびの尾のような葉は緩やかにねじれて伸びます。やがて清冽に苦味走ってむっちりとした蕗の薹(ふきのとう)も見つかりますね。

冷たさも、寒さも、しもやけも、かじかんだ手も、霜柱も、木枯らしも、氷雨も豪雪も、凍土も、あかぎれの指も、冴えた月も、白い息も、波のように押し寄せては、いつか過ぎていってしまいますが、それぞれの生を象(かたど)っていく大切な時として愉しめるものだと思います。最初に挙げた心敬の言葉にあるような「冬の美」の再発見は、万物笑う春の若々しさや、緑滴る夏の瑞々しさや、錦繍豪奢(きんしゅうごうしゃ)な秋の艶やかさに深度と重力をもたらす根本だと思うのです。

花と食で彩る日本の暦〜二十四節気『清明』_4塚田有一(つかだ ゆういち)

ガーデンプランナー/フラワーアーティスト/グリーンディレクター。 1991年立教大学経営学部卒業後、草月流家元アトリエ/株式会社イデーFLOWERS@IDEEを経て独立。作庭から花活け、オフィスのgreeningなど空間編集を手がける。 旧暦や風土に根ざした植物と人の紐帯をたぐるワークショップなどを展開。 「学校園」「緑蔭幻想詩華集」や「めぐり花」など様々なワークショップを開催している。

文: 塚田有一

写真:みやはらたかお

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